北海道の知床半島沖で観光船「KAZU I」が沈没した事故。原因は「ハッチ」から海水が船内に流れ込んだ可能性が高いと、国の運輸安全委員会が経過報告を発表しました。一体何が起きていたのでしょうか。
「船が沈みよる。今までありがとう」
「浸水して足まで浸かっている。冷たすぎて泳ぐことはできない。飛び込むこともできない」
乗客が沈没直前に携帯電話で家族と交わした会話です。事故の原因を調べていた運輸安全委員会の報告書に記された内容です。
4月23日、知床半島沖で観光船「KAZU I」が沈没した事故。20人が死亡し、6人が行方不明のままです。
その沈没の原因が明かになってきました。
報告書によりますと、船首部分の甲板にある「ハッチ」と呼ばれる出入口の留め具に不具合があり、きちんと固定できない状態でした。
航行中の揺れで「ハッチ」が開き、そこから海水が船内に流れ込んだとみています。
船の底には「隔壁」という仕切りがありますが、それに穴が開いていたため全体に浸水が広がり、エンジンが停止したとみられています。
さらに「ハッチ」のふたが荒波で完全に外れ、客室前方の窓ガラスに当たって破損させ、そこからも大量の海水が入り沈没に至った可能性が高いとしています。
海難事故の調査や原因究明に詳しい専門家は今回の報告書について。
神戸大学 若林 伸和 教授:「事故の目撃者もまったくいない、聞き取りできない状況で調査をしている。経過報告書が75ページある。通常大体2ページなので、運輸安全委は重大事故と認識している」
異例とも言える今回の経過報告書。隔壁が水が通らないように密閉されていれば沈没は避けることができたとしています。
そして、運航の判断に問題があったことや、安全管理規程が遵守されていなかったこと、運航管理者による運航管理の実態が存在しない状態などがあげられ、悪天候が予想されるなか出航した運航会社のずさんな安全管理を指摘しています。
安全統括管理者と運行管理者を兼務していた、運航会社「知床遊覧船」の桂田精一社長は、記者の問いかけに答えることはありませんでした。
また、2021年に2回事故を起こしていた「知床遊覧船」に対する国の監査と、通信困難な携帯電話への連絡手段の変更を認めた日本小型船舶検査機構の検査が、実効性を有していなかったとも指摘されています。
運輸安全委員会は最終報告書の公表に向け、今後も調査を続けます。
事故については運輸安全委員会の調査とは別に、海上保安庁が業務上過失致死容疑で捜査を続けています。
今後この事故の責任はどう問われていくのか。
海難事故の調査や原因究明に詳しい神戸大学の若林伸和教授は、運航会社の桂田精一社長の責任について、「安全統括管理者」と「運航管理者」を兼務していることから今後、刑事責任を問われる可能性があると指摘しています。