下校のチャイムが鳴り、生徒が校舎から次々と出てきた。駐輪場に並ぶ自転車のカゴには、白や濃紺のヘルメット。それを頭にかぶり、勢いよく走り出すのは、みんな高校生だ。全国でも珍しい光景だが、愛媛県では見慣れた日常となっている。
「皆さんは世の中にとって重要で素晴らしいことをしている。始まりには理由があることを忘れないで下さい」。県内の高校で2018年10月に行われた「命の授業」。講師の渡辺明弘さんは生徒に呼びかけた。14年12月、県立伊予農業高1年だった長男の大地さん(当時15)は、信号のない横断歩道を渡っていてトラックにはねられた。約20メートル飛ばされ、頭を強打して亡くなった。期末試験を終えて自転車で帰宅中だった。安全確認を怠ったとして、運転手は執行猶予付きの有罪判決を受けた。
事故の翌日は大地さんの母の誕生日だった。葬儀の数日後、部屋のクローゼットから折り紙の花束が見つかった。ピンク、緑、黄……。鮮やかな花びらの部分は、大地さんが朝早く学校に来て、和柄の折り紙を折りためていたと、友人から聞いた。茎の部分も手作りだった。「誕生日はお花がいいな」とリクエストしていた母へのサプライズ。母は、胸に抱きしめて泣いた。
https://www.asahi.com/articles/ASM4Q6KH0M4QUUPI00J.html
交通事故の犠牲者二度と…自転車通学、ヘルメットを義務化
おすすめ記事