知床沖の観光船沈没事故から4カ月が過ぎましたが、いまだに12人の行方が分かっていません。
捜索態勢は縮小傾向となる中、乗船者の家族を思い活動を続ける捜索ボランティアがいます。
なぜ、捜索を続けるのか。ボランティアたちの思いに迫った。
北海道東部の羅臼町の漁師、桜井憲二さん。この時期は早朝からサケマス漁の作業に追われています。羅臼町で生まれ、40年以上、知床の海を見続けてきた桜井さんが気をもんでいるのが4カ月前の事故です。
桜井 憲二さん:「海のことを知っている人間だったらありえない事故だったんで、当日、ニュースの第一報で聞いたときはびっくりでしたね」
2022年4月、知床沖で乗客・乗員26人を乗せた観光船「KAZU1」が沈没した事故。14人の死亡が確認され、依然12人の行方がわかっていません。
桜井 憲二さん:「もしも自分の家族なり子供が犠牲になったら」
クマが出没する危険な現場で、捜索ボランティアたちが見つけたものとは…
桜井 憲二さん:「自分が遺族・家族の立場だったらって考えるよね、もしも自分の家族なり子供が犠牲になったら」
知床の事故から8月23日で4か月。発生から1か月後までは海保や警察などによって船や航空機・陸路からの大捜索が続いていましたが態勢は縮小…。
そんな中、桜井さんら捜索ボランティアは行方不明者の捜索を続けてきました。帰りを待つ家族に思いをはせたのが理由の一つでした。
8月13日には登山仲間6人と3回目となる捜索に。羅臼町の相泊漁港から海岸線を北上、テントで一泊した後、知床半島の先端へと進みます。
12キロほどもあるリュックを背負いながら、足場の悪い海岸線沿いを約30キロ歩きました。
桜井 憲二さん:「3頭いるぞ」
数百メートル先にはクマの姿も確認できました。ハンターで猟友会の部会長も務める桜井さんの指示の下、クマを避けつつ険しい道のりを前へと進みます。
知床半島を捜索したボランティア:「そこに行かないと届かないものの可能性があるのなら、行ける人たちが行くのが意味のあることだなと今回参加しました」
危険な現場に立ち探し続ける桜井さんら捜索ボランティア。意識しているのは家族の「心の整理」です。
桜井 憲二さん:「長い間海にあったものが漂着したりするし、可能性はゼロじゃないので、なんか見つかればいいよね。遺留品でも、もしかしたら最後の形見になるかもしれないし。心の整理をつける上ではやっぱり必要なことなんじゃないかな」
そして2日目、KAZU1が沈没した現場から約12キロ離れた地点で女性か子どものものとみられる頭の骨のほかジーンズや女性用の下着、スニーカーを発見しました。
大事そうに抱えながら港へと戻ってきた桜井さんはそのまま警察へと引き渡しました。
桜井 憲二さん:「みんな協力して…探してやってほしい」
実は桜井さんたちは6月にも同じ場所を捜索していました。当時、漂着物は見つかりませんでしたが2か月経って発見されたのです。
桜井 憲二さん:「重たいものはどんどん下にいくんですけど、軽いものだと潮流だったり、いろんな波の力で徐々に沿岸に寄せられるんですよ。打ち上がれば動物の食料になってしまうので、そこからは時間との勝負なんです」
あの日…大好きだった新幹線のリュックサックを背負ったまま、行方が分からなくなった7歳の長男と、その母親。2人の帰りを待つ男性は、桜井さんら捜索ボランティアの活動に心から感謝しているといいます。
行方不明者の家族:「今回はボランティアの方々に捜索いただいて、本当に言葉にできないくらい、感謝しています。早く家族が見つかってほしい気持ちと、ちょっと認めたくないなという気持ちと、見つかったとき、うまく受け入れられるか、すごい複雑な気持ちはあります。すごく複雑な気持ちですけど、見つかってほしいですね。やっぱり…見つかってほしいです」
一方、事故から4カ月。発見につながる情報が日に日に少なくなる現状に心を痛めてもいます。だからこそ海保や警察などにも捜索を強化してほしいと訴えます。
行方不明者の家族:「『巡視船3隻、航空機1機で捜索しましたが、行方不明者の発見には至りませんでした』という国のメールが何か月も続いていて。かなりの人数を投入して捜索してくださっていたんですけど…海保と道警がしっかり連携をとって、海上の目視だけでなく、定期的に海岸線や陸の捜索も行っていただきたいです」
警察では今回の桜井さんらの動きをきっかけに毎月、行ってきた一斉捜索を前倒し。その結果、複数の骨や子どもの靴などが発見されました。
8月21日、桜井さんは再び仲間たちと捜索に出ました。これまで足を踏み入れていなかったKAZU1の沈没現場・カシュニの滝付近まで船で向かい、海岸に上陸しました。
桜井 憲二さん:「潮流のことを考えると半島に近いほうが確率高いんですよね。もう、とにかく見つかってほしいな、それだけですね」
カシュニの滝から知床岬先端の文吉湾まで約20キロ。急斜面の岩場を上り下りしながら何か手がかりとなるものがないか、岩の隙間や草むらの中などくまなく探します。
出発から11時間後、桜井さんらが港に戻ってきました。
カシュニの滝付近では手がかりとなるものはありませんでしたが、前回、骨などを発見した啓吉湾でトレッキングシューズと女性用の下着を発見しました。
桜井 憲二さん:「捜索区間の空白地帯を埋めることができたので我々としては、遺族・家族のためにはこれでよかったのかなと思っています。本当はもっと楽しい思いでの場所だったはずだったんですけど、悲しい場所になってしまったので申し訳なかった。そういう気持ちで一生懸命探しているんですよね」
決して事故を風化させない。桜井さんたちが探した手がかりは帰りを待つ家族にも届いています。